雲南市大東町山王寺地区、ここには日本人の多くがほっとするような、どこか懐かしさを覚える場所があります。
それがここ「山王寺の棚田」。
標高300mの山腹に、面積19ha、約200枚の棚田が出迎えてくれました。

訪れたのは、色づいた稲穂が風に揺られていた秋口。
段々になった田んぼが緩やかに続く、なんとも心落ち着く景色が広がっていました。

山王寺の棚田

棚田の小道を歩いていると立派な看板と、小高い場所に展望台を発見。
看板のほうは、「日本の棚田百選」に選ばれたことから設置されたもののようです。
その内容は、山王寺棚田の四季と、人によって行われる稲作(暮らし)について。
ここで生きてきた人々の誇りが感じ取れる内容でした。
美しい景観は人々の努力によって作られてきたものなのですね。

日本の棚田百選展望台

棚田はその特殊な作りから、農機が入らないことも多く作業に手間がかかります。
それは、農業をしていなくても想像がつく範囲でのイメージ。
実際に私は、この程度の知識をもって「棚田」のことを考えていました。

ただ、棚田での農耕に従事している人、棚田を知る人たちの意識はもっと厳しいものでした。

平坦地の水田に比べて棚田は「労力は2倍、収量は半分」ともいわれるほど。
全国的に見れば「棚田の放棄」をしてしまう地域や、地域の過疎・高齢化から住民がいなくなってしまう、そういった場合もあるそうなのです。
もちろん今でも高齢化は進み、この原風景は姿を消していっています。

この事態を打開するため、ここ山王寺の棚田では、様々な取り組みをされています。
【市民農園オーナー制度、オーナー・トラスト制度、子供と取り組む「田んぼの学校」の開催、棚田祭りなどのイベント開催、棚田保全活動(草刈)、ボランティア募集など】

特に興味深く感じたのは、市民農園オーナー制度。
棚田保全のため、放棄されている棚田の土地を利用し農作物を栽培する取り組みです。
田んぼとして活用しなくても、農作物を育てることで人の手が入り、景観を保つことにつながります。

斜面につくられた棚田は、土手のような形状をしているそうです。
ここが放棄され、草が生い茂れば、動物が住み着いてしまったり、景観も非常に悪くなります。
一掃しようと除草剤を使えば、雑草の根が枯れ、土手の崩落の危険が高まるというのです。

これらのことから、本当の意味での維持・管理・保全には、こまめな草刈りを行う必要がある。

この取り組みの詳細を読んで初めて日常的な手入れ、細やかな作業の重要性にはじめて気付きました。

放棄される田んぼ、そのことを悲しくは思っていましたが、残された周囲の農地にも関係する大きな問題であったようです。
棚田での耕作と衰退する現状、維持管理の大変さ、どれも知らないことばかりでした。

ハデ干しハデ干し2かかしと看板

ゆっくりと散策したあと、小高い場所に見えていた展望台に上がってみれば、遠くに山並みが見えて、その手前には小山がぽこぽこ。
そしてその小山の間に棚田が広がりを見せています。
細長く曲がった形をした小さい田んぼが、1枚1枚組み合わさるように並ぶ、目にも楽しい光景。
先に述べたように、心落ち着く素敵な場所です。

棚田

棚田のことを知った後は、その姿が当たり前のようにあることにありがたさを感じ、より一層美しくみえる光景に感動しました。
ただ美しい場所として棚田を眺めるのではなく、生産現場であることや取り組みを知れば、奥深さが増す気がしますね。

「山王寺の棚田」の拡大写真

「展望台から」の拡大写真

「広がる棚田」の拡大写真

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いきなりですが、棚田に「必要不可欠なもの」はなんだと思われますか?
先ほどの取り組みの中で挙げていた「ボランティア募集」、これが「必要不可欠なもの」と関係しています。

それは、「ため池」です。

「ため池なくして棚田なし」と言われるほど重要な農業用水源。
山王寺の棚田では、お米を育てるのに必要な水を3か所のため池から供給しているとのこと。

ボランティア募集されていたその内容は、ため池と棚田をつなぐ長い水路の清掃、草刈り、ゴミの除去、ため池の修繕作業など。これらの作業は、田植えを迎える春までに行われるといいます。

大変な作業は、大事な作業でもあります。
「ため池」は、良質なお米を育てること、棚田を維持していくこと、すべてにつながるキーワードなのです。

「ため池」がかなり重要と気づいて、ここ山王寺の近く「うしおの沢池」へと足を運びました。

うしおの沢池

実は「ため池100選」にも選ばれているこちらのため池。歴史も古くなんと宝暦13年(1763年)に築造され、増築や改修を経て、現在も水源として活用されています。

ため池は、農業用水の確保のために、ここ山王寺のように標高の高い棚田や、河川用水に恵まれない地域の棚田で多く設置されてきたといいます。

こうして訪れてみると、今まで意識してこなかったため池の存在にもありがたさを感じます。
周囲を歩けば、木々が茂る小道や、吹き抜ける風、きらきらとした水面、まるで湖と見まごうほどの素敵な環境。
これも、地元の農家の方々とボランティアの方が手入れを行いながら大切に扱ってきた証なのでしょうか。
心洗われるような景観には、驚きを隠せませんでした。

ため池まるで湖畔

また、全国水土里ネットでも、
『洪水調整などの国土保全機能の他、多様な生態系を保全するビオトープ、あるいは水辺を楽しむ親水空間としても、その価値が見直されてきています。』との記載があり、ため池の重要性をさらに強く感じました。

山王寺の棚田を訪ねて、「ため池」の存在まで見直すことになるとは想像もしていませんでしたが、私たちが知らないだけで大切なものは、世の中にたくさんあるのかもしれません。
本当の価値を知る機会に恵まれて、訪れて良かった、と充実感を感じました。

棚田を通して、またひとつ素敵な場所を知ることができ、棚田の貴重さ、生産現場としての大変さ、いろいろなことを学ぶことができましたよ。

近くに棚田がある方、興味を持ってくださった方、日本人の原風景にぜひ足を運んでみてくださいね。「ため池」もセットがおすすめです。

《山王寺の棚田や、うしおの沢池について詳しくはこちら うんなん旅ネット(雲南市観光協会)》
《島根県の棚田について更に詳しくはこちら しまね棚田元気ネット

「うしおの沢池と木々」の拡大写真

「湖畔のような景色」の拡大写真

「うしおの沢池全景」の拡大写真