秘境の散歩 立久恵峡
2016年07月28日
"たちくえきょう"。
少し変わった響きの名前を持つこの峡谷は、神戸川に沿って約2KM続く渓谷に高さ100~200mの奇岩柱石が1KMに渡ってそびえ立つ、国の名勝・天然記念物で県立自然公園にも指定されています。
巨大な岩がまるで杭を立てられたかのように並んでいるという意味で呼ばれた"立杭"が、その名の由来なのだそうです。
出雲市街地から国道184号を南に車で約20分。(公共交通機関を利用される場合は、JR出雲市駅より一畑バスで約25分「立久恵峡」下車すぐ。)
水墨画のような風景と称される立久恵峡ですが、車を停めてすぐに広がる景色が、その表現にあまりにも近いことに驚かされます。
中国自然歩道 のルートにもなっている立久恵峡は、『立久恵峡周遊モデルコース』として約2.6KMの歩道が整備されており、美しい景観を見ながら気軽に散策を楽しむことができます。
今回は、立久恵峡バス停前の駐車場から国道側の遊歩道を進み、浮嵐橋を渡って折り返し、最後に不老橋を通るルートを選びました。約半周の1.3KMを歩く、軽いお散歩コースです。
神亀岩、烏帽子岩、ろうそく岩、猿岩、屏風岩、袈裟掛岩、天柱峯と、それぞれに名の付く巨岩を向こう岸に見ながら歩きます。
季節は新緑の6月末。美しい緑の道です。
秋には紅葉、冬には雪化粧、春は梅の花や山桜・・・春夏秋冬、それぞれに違う美しさがあるのだそうです。
『浮嵐橋(ふらんきょう)』
緑色に赤い橋が良く映えます。この吊り橋を渡って向こう岸に。もちろん・・・揺れます!
荒々しい岩山とは違う、神戸川の穏やかな流れです。
浮嵐橋を渡ると、少し空気が変わりました。
今にも朽ち果ててしまいそうな、無数のお地蔵様が姿を見せます。
様々な表情で道端を埋め尽くすように並んでおられる姿は、まるでそれぞれの意志で、立久恵峡と一体化しようとされているかのような、不思議な雰囲気が感じられます。
そして、その先を進むと現れたのは、『立久恵山霊光寺』。
霊光寺は、中腹の巌窟に如来が安置されたという天柱峯を背にして建てられた寺です。
その如来は今から約1,200年前に、亀の背に乗って川から上がってこられたと伝えられています。その姿を見つけた学僧が天柱峯に祀ったところから、立久恵峡の信仰が始まったのだそうです。
『立久恵山霊光寺』由来
背後にそびえる天柱峯は、それ自体が仏像としての佇まいを感じさせます。
立久恵峡(霊光寺参道)
かつては山岳信仰の修験道として栄えた立久恵峡。参道の階段を降りると、さらに荘厳な景色が・・・
『五百羅漢』です。
宗教宗派を超えた様々な石仏が安置され、今やその数は千体を超えています。
人びとの祈りと、畏れと・・・何とも表現しがたい、圧倒的な静けさが漂う空間です。
五百羅漢を後に歩き出すと
岩肌に活き活きと息づく植物たちに目が行きます。
岩肌に咲く黄色い花は、準絶滅危惧種であり、島根県の固有種である"オオメノマンネングサ"。
立久恵峡は、貴重な植物群が見られる場所でもあります。
『亀ヶ渕』。
如来を乗せた亀は、ここから浮上したのだそうです。
最後に、『不老橋』という名前の吊り橋を渡ったら、今回の散策は終了です!
時間にして40分程。
"日々の喧騒を離れて、自然の景色に圧倒されたいなぁ。だけど山登りはちょっと・・・散策くらいがちょうど良いなぁ。"というときに、特にお薦めのコースです。
(因みに、ここ出雲市乙立町は、出雲市街から須佐神社のある佐田町須佐との中間に位置しています。須佐神社までは車で約10分。併せて行かれるのもお薦めですよ。)
立久恵峡の渓谷美
立久恵山霊光寺
自然に溶け込む立久恵峡の羅漢像
足を進める毎に次々と異なる表情を見せてくれる立久恵峡。渓谷美と、古寺と千数体もの羅漢像が自然に溶け合うように並ぶ荘厳な空気。どこかにタイムスリップしたような気分になれる、日常を忘れる40分間でした。