加賀の潜戸~小さな大航海~
2017年08月07日
島根県松江市島根町。
ここに国指定名勝及び天然記念物の「加賀の潜戸(かかのくけど)」があります。
島根半島の入り江、海蝕によってできた複雑な地形のなかに、さらに複雑怪奇ともいえるような不思議に満ちた海の洞窟。
これが「潜戸」です。
その「潜戸」をめぐる観光船も運航されており、誰でも「加賀の潜戸」を訪れることができます。
潜戸観光遊覧船は、日本海の波が穏やかな3月から11月まで運航し、2つの「潜戸」をめぐるコースと、天然記念物である海蝕崖「多古の七つ穴」をめぐるコースを提供しており、非日常的なスケールの大きい船旅が体験できます。
国の名勝および天然記念物に指定されたのが昭和2年、昨年90周年を迎えました。
記念すべき90周年の夏、「潜戸」への船旅に繰り出すことに。
潜戸観光遊覧船は、島根町加賀湾に面する「マリンプラザしまね」から出航しています。
受付でチケットを買ったらライフジャケットを装着。
船に乗り込み、いざ出港!
出発してから約5分で、旧潜戸(仏潜戸)が見えてきました。
ここでは幼くして亡くなった子供達を偲び、尊ぶため、上陸して「賽の磧」へお参りができます。
旧潜戸へ接近、上陸
トンネルへ
トンネルを抜けた先の「賽の磧」へ。
旧潜戸
こちらに伝わる有名な話があります。
『十にもみたない幼子が、西院(さい)の河原に集り、父恋し、母恋し、恋しと泣きながら河原の石を集めては
塔を積みあげると伝えられ 「一重積んでは父のため、二重積んでは母のため」と一心不乱に石を積んでいると、
どこからか鬼どもが現われ、折角積んだ塔を片っ端から崩していく。
するとそこへお地蔵さんが現われて鬼どもを追い払い、幼い亡者を助けて下さると云います。 』
(松江観光協会島根町支部HPより)
他にも数多くの伝承が残されていますが、こちらの話をきいてから「賽の磧」を訪れると、至る所に石が詰まれている光景や、独特の雰囲気に、このような話が生まれて今に伝わるのもわかる気がしてきます。
奥へ
積まれた石
また、以前は洞窟の入り口まで船を着けて上陸してたそうですが、安全面などを考慮して、トンネルを通ってゆく形になったそう。
今やその船着き場は、朽ちて瓦礫となっていました。その痛々しい姿は「賽の磧」の悲しさを増長させているようにも見えました。
今現在の船着き場の様子
以前はこちら
古代の伝説
お参りを終えて、ここから北へ進むと新潜戸(神潜戸)。
こちらは佐太大神(猿田毘古の大神)誕生の地とされる、巨大で神秘的な洞窟です。
新潜戸の入り口、西から東に穴が空いていて、更にその先、的島(的沖田島)まで一直線に貫いたような穴が。
この光景もなかなか珍しいと思っていたのですが、中に入ってさらに驚きました。
3つの入り口から光が差し込み、洞窟特有の薄暗さや心細くなるような印象を受けることも一切ない、清廉な場がそこにはありました。
岩肌の地層が目視できるほどの明るさで、海はみずみずしい青さをたたえています。
そして驚くほどに天井は高く、この空間は、まるで大きな部屋のよう。
そう感じて、新潜戸に伝わる神話を思い返してみると、
『 昔、むかし、神代のむかし、出雲の祖神神魂命(おやかみかもすのみこと)の娘神キサカヒメ命という神様が、
子供を産むのに良い産屋はないものか、と高い所からあちらこちらと探しておられました。
「あっ、あそこに良い産屋がある」と加賀の神崎の岬にある岩穴を見つけ、ここを産屋と定めて佐太大神をお産みになり ました。
お産まれになろうとする時、母神が大切にしていた弓箭が波にさらわれて流されてしまいましたが、母神は「私の御子が
麻須羅神(まさらおしん)の御子であるならば、失せた弓箭よ出でこい」と祈念されました。
すると、波のまにまに、角の弓箭が流れてきましたが、生まれたばかりの御子は、吾が弓箭にあらずと投げ捨てられました。
母神がなお一心に祈念なされると、こんどは金の弓箭が流れてきました。
御子は、まさしく吾が弓箭と取上げ「闇き窟かな」と申され金の弓に金の箭をつがえ射通されました。
金の弓箭で射通された東口から光りが差し込んで明るく輝いたため「ああ、かかやけり」と申されたのが、ここ加加の地名のはじまりで、神亀三年、加賀と改められました。』(松江観光協会島根町支部HPより)
子供を産むのにふさわしい産屋、金の弓箭で射通された東口、神話と洞窟内のイメージがぴたっと重なり、はっとするような心地がしました。
この神話は、奈良時代に編纂された『出雲国風土記』に記されていたもの。
当時の人々の感性の豊かさと、壮大な想像力に敬服するばかりです。
潜戸の穴
新潜戸
遊覧船の中で、考えていたことは「2つの潜戸」の不思議な点について。
同じ加賀湾の中でも、一方では、仏教の信仰対象である菩薩の一尊・お地蔵様の存在が語られ、もう一方では、出雲四大神の一人佐太大神の誕生の地として語られていること。
ただ、2つの潜戸を訪れてみれば、それぞれの個性や異なる雰囲気を、肌で感じ納得している自分がいました。
先人達も潜戸にただならぬパワーや神秘性、言葉にできないものを感じていたのでしょう。
人知を超えた何か、壮大なロマンを与えてくれる魅力ある場所。『加賀の潜戸』はそういう場所でした。
約50分の船旅は、小さな大航海。
不思議な旅を体験してみませんか?
追記
周囲約2kmの小さな島・桂島。
桂島からみた加賀湾。
マリンプラザしまねと目と鼻の先にある波も穏やかな浅瀬の桂島海水浴場。
加賀湾には潜戸遊覧線以外にも、海の美しさを感じ静かに過ごせる場所があります。こちらもぜひ訪れて欲しいスポットです。
桂島
桂島からみた加賀湾
桂島海水浴場