三江線沿線地域 ~県境を歩く。~
2017年10月27日
三江線は中国地方を横断するように走る鉄道で、その傍らには江の川が流れていました。
江の川は、広島県から島根県を経て、江津市から日本海へ注ぎます。
全長194kmもある雄大な川は、広島県に入ると「可愛川(えのかわ)」とも呼ばれるそうで、このことを聞いたときに「江の川が江の川として認識されているのは、当たり前じゃないんだ。」と気づかされ、少しの驚きがありました。
島根県と広島県、近いけれど風土が異なるこの2県が「接近する土地」に興味がわいた瞬間でした。
また単純に、三江線が走らなくなっても訪れたくなる場所を求めて、まだ降り立ったことのないところに行ってみたいという気持ちからこの旅の目的は決まりました。
『県境を歩く。』
いったいどんな場所でしょうか。
私たちは、島根県邑智郡邑南町「作木口駅」に降り立ちました。
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簡素なプラットホームに立って、広島方面へ走り行く電車を見送ります。
そのまま、あたりを見回せば、
神社の鳥居、石州瓦の民家、アーチ橋。
目に映るものは意外と多く、さあどこへ向かおうか。
まずは、一番最初に目についた神社へ。
こちらの神社はマップにも記されていないような小さな神社でした。
きっとこの土地の神様がいらっしゃるのでしょう、お邪魔しますと挨拶をして、ここから本格的な散策を始めます。
「作木口駅」のある、三江線の線路が走る西側と、江の川を挟んだ東側。
この東側が広島県三次市作木町です。
想像していたよりも対岸の様子がよく見えて、まじまじと眺めます。
こんなに近いのに別の県。雰囲気がやっぱり違うなあ。などと思いつつ、江の川にかかるアーチ橋に近づきます。
たもとには『みくに橋』との表記があるのみで、特別変わった様子がありません。
期待していたのは、『ここから広島県』などといった県境を示す標記です。
橋の中ほど、渡った先、そう思って橋の隅々を見ていても何もなし。
そっけないくらいに何もありません。県境らしさを意識させないようにしているのか、本当に意識していないのか。なんだかもっと県境に迫りたくなってきました。
ここから南下した場所にある、もう一つの県境へ足を運ぶ決意をして歩き始めます。
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道をてくてく。
脇には江の川と畑や民家。
電柱も間隔がかなり開くようになり、人家が少なくなっていく様子が感じられます。
途中、森と見紛うほど木々が茂る箇所を通過すると、
右手には高い壁のようなコンクリートが出現しました。
この上に線路が敷かれているようです。電車が通ればものすごい迫力が感じられるポイントなのではないでしょうか。
きっと通過する時に電車が風を切る音が聞こえるでしょう、それは三江線の息づかいのように、生き生きと感じられそうです。この道をただ歩いているだけでも、普段とは違った目線で三江線が楽しめただろうなと想像ができます。
また、進めば進むほど、江の川の美しさに目を奪われることが多くなりました。
このあたり(三次市作木町,邑南町・美郷町)は、中国山地の中央に位置する山村地域、江の川の中流部。今まで見てきた江の川の中でも、一際穏やかな様子が印象的です。
川の流れとともに長い距離を歩く、という経験はしたことがなかったのですが、自然の中に身を置いて運動をすると癒やされるのだなと実感。
疲れも感じにくいような・・・不思議です。
色々な発見があるからなのか、川の小さなせせらぎが優しいからか。
細かいことや、理屈は抜きにして、心で「癒やし」を感じることが出来ました。
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さらに歩みをすすめると、線路にも変化が現れます。
連続する橋脚がちらり。
トントントン・・と等間隔に並び、なんだかリズミカル。
高架下にはわさわさと草木が生えていました。
三江線の廃止とともに、無骨な橋脚もジワジワと自然に覆われてゆくのでしょうか。
どうなるのかな、ちょっと想像しても悲しくなるようで。
ただ、草木を見ていました。
橋脚を過ぎると、再び壁のようなコンクリートが続きます。
何も考えずに歩いて、ふとした瞬間、江の川と線路を眺めます。
視界にどちらもずっとあるのですが、時々はっとするほど目を奪われる瞬間が。
それは山の形や、空の色だったり、取り巻く環境が変化する際に感じるもので、新しい一面が見えたような、そんな景色です。
ずっと江の川沿いの風景が続いている中で感じる変化は、絶妙なもので。きっと写真からは伝わりにくいですね。少し残念な気もしますが、これは歩いた人の特権とも言えるかもしれません。
次第に、歩いているだけ、それだけが段々楽しく感じるようになってきました。
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さて、江の川の向こう側。
広島県側の様子もちらちらと見ていました。
こちらよりも道は広く、車が走って行くのが見えます。
山の斜面はがっつりと一面コンクリートで固められているところも。
このあたりの交通手段の多くは車。
そのことからも、あちら側は道がしっかりとしているのだと分かります。
島根県側は三江線が走り、広島側にはしっかりした道路が走る。
協同で頑張ってきたよ。そんな言葉が浮かんで、
人の生活のために支え合ってきた関係性が見えたように思いました。
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マップで確かめた県境はこのあたり。そう思って前方を見てみると数メートル先にカーブミラーが見えてきました。その奥には高架の下をぐっと入り込むような道が続きます。
橋脚のすぐ側まできて、目に留まった白い標識には
「一級河川江の川水系江の川管理区分表示柱」とあり、
またしても広島県と島根県の県境の標識ではありません。
この先にも道は続き、山手から小川が流れ、江の川に注いでいるのが確認できました。
何度もこのあたりを行き来し分かったことは、この小川を挟むように島根県と広島県の県境があるということでした。
またしてもこれといって、県境を示すものはありませんでした。
ただ、江の川を軸にして、三江線や道路が「島根県と広島県」を結びつけていること。
県境を探し歩いた道が、ウォーキングするのには最適な環境だったこと。
これからもこの景観と雰囲気を感じに来る人がいてくれると良いなと感じたこと。
歩くだけで様々なことが感じられました。
三江線がなくなってもこの地域と道は消えません。
三江線の面影に触れながら沿線地域を歩く。
これからの三江線との付き合い方、その一つになれば良いと思います。
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来た道を帰って「作木口駅」に。
しかし、この先も道は続く!ということで、今度は歩いて北上。
江の川沿いの小高い場所に民家がぽつぽつ。畑や田んぼも見られます。
広島県側では家がぎゅっと密集している箇所もあるようでした。
「作木口駅」から歩いて23分。
前方には作木口駅前にあったものと同じ規模の橋が架かり、その奥に駅がありました。
着いたのは「江平駅」。
こちらから石見川本駅に向かう帰りの電車に乗り込むことにしました。
電車を待つ間に「たんどばし」をチェックしたり(やはり広島県と島根県の県境を示す標記は見つけられず。)、高い場所にあった神社まで足を運んだり(こちらも、こじんまりとした良い神社でした。)時間いっぱい過ごしました。
時間が迫って、駅へ。
帰りの電車が近づいてくる気配に、ホームからシャッターを切りました。
この旅も終わりが近づいてきました。
三江線に乗り込んで、県境の町にさようなら。
たくさん歩いて、考えさせられたり、癒されたり。いろんなことを感じたけれど、
「いい旅になったなあ。」という気持ちが、じんわり胸に残りました。
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沿線地域を身近に感じてほしい。
三江線の終わりが、地域の終わりではない。
そんなことが少しでも伝われば良いと思います。
これから、いってみませんか?三江線と江の川、県境の町。
島根県邑南町でお会いしましょう。