今年10月に大田市の『琴ヶ浜』が国の天然記念物に指定されました。

琴ヶ浜

琴ヶ浜は、大田市馬路町馬路の海岸に約1.5km続く、日本でも有数の美しい鳴り砂(鳴き砂)の浜。


歩くとキュッキュッと音の鳴る、"鳴り砂"
どうして音が出るのかと言うと...それにはいくつもの条件が重なっていなければならず、今、音を出す鳴り砂の浜が日本で確認されているのは、30ヵ所ほどと聞きます。

地元の方から伺ったお話によると・・・
まず、砂全体の成分の60%以上が石英砂であること。砂の粒が小さく均一であること。
この石英砂に急な力が加わったとき、石英粒同士が擦れ合い、キュッという音がするのだそうです。

そして、砂の表面が綺麗な状態でなくてはならならず、不純物やゴミが少ないこと。
琴ヶ浜には川からの水の流入が少なく山から土砂などが入りづらいため、石英砂の純度が保たれているそうです。

しかし、それだけでは不充分で、綺麗な砂は波が洗い流してできるため、波がかからないところの砂は鳴らない。勿論、砂を洗う海の水も綺麗でなくては、鳴らない。

綺麗な海と砂浜が保たれてこそ、鳴り砂は音を出し続けることができるのです。

砂浜の主成分石英は水晶の素だそうで、波に洗われ細かく丸みを帯びた砂は、きめ細かくサラサラと滑らかで、陽の光でキラキラと輝いて...とても綺麗です。

琴ヶ浜の砂

そんな自然がつくり出した宝、美しい鳴り砂の浜、琴ヶ浜。


名前の由来は当然、「音がするから琴が浜」だと思っていたのですが...それだけではありませんでした。興味深いお話を聞くことができました。

琴姫の碑

ここは、馬路琴ヶ浜郵便局近くの駐車場隣にある、『琴姫の碑』。

比較的新しい石碑に見えますが、この地に古くから残る琴姫伝説は、今から800年以上前に遡ります。

壇の浦で源平の戦に敗れ、ひとり琴を抱いて小舟に入れられ逃がされた平家の姫が流れ着いたのが、この浜。美しい姫が平家の娘と知りながらも、優しいこの土地の村人は姫を助け保護します。助けられたお礼に毎日琴を奏でる姫は、村人から慕われ大切に匿われ過ごしますが、ある日突然亡くなってしまいます。悲しみに暮れる村人。大好きな姫を葬りたいけれど、姫は平家の娘。御墓を建てては罰せられてしまう。姫を慕う村人は、琴ヶ浜を見下ろすことのできる山に塚を建て、そこに姫を埋葬したそうです。

砂浜が姫の奏でる琴の音のように鳴くようになったのは、それからのことだと云います。
それから村人たちは、"姫を琴姫"、"この浜を琴ヶ浜"と呼ぶようになった。というお話です。

長い間、口伝えに語り継がれてきた琴姫伝説。
多くの人は単なる言い伝えだと思っていたそうですが、なんと!大正初期にその地の発掘が行われ、朱色の土とともに遺骨と着物の端切れが発見されたというから驚きです!

遺骨は同じ馬路町の満行寺に移され、昭和42年、琴ヶ浜にこの碑が建立されました。


美しい鳴り砂に続く琴姫の伝説と、馬路の人々の優しさ。
知って歩く砂浜は、また違ったものに感じられます。

琴ヶ浜の波打ち際

琴ヶ浜タラソウォーキング

写真は、今年の3~5月に開催された、『琴ヶ浜タラソウォーキング』に参加したときのものです。

タラソとは、海の力を借りて心身を癒す海洋療法のこと。
砂浜の上を、ノルディックポールを使って歩きます。優しい指導員の方にポールの使い方や歩き方を教えていただいて、初心者の私たちでも安心して楽しく参加することができました。この日は地元の方の参加が殆どでしたが、私たちも一緒に歩かせていただきましたよ。

琴ヶ浜

砂を鳴らして歩いたり、途中で小さな貝殻を見つけたり、時にはゴミを拾いつつ...海に癒されながら楽しそうに歩く地元の方の様子は、琴ヶ浜に昔からつづく、変わらない風景なのかなぁと想像します。

琴ヶ浜タラソウォーキング(2017年3~5月開催)
琴ヶ浜タラソウォーキング(2017年3~5月開催)

琴ヶ浜

琴ヶ浜で海藻を見つけ喜ぶスタッフ
海藻を見つけ喜ぶスタッフ

すぐ近所にお住まいの参加されている方が、砂の中に紛れているという小さな貝を探しておられました。琴ヶ浜には1mmにも満たない小さな巻貝、微小貝の貝殻が打ち上がるそうです。

一緒に探しながら、ひとりの方がぽつりと仰った言葉は、とても印象的でした。

"若い頃に県外で暮らしたが、いつもこの琴ヶ浜の景色だけは頭から離れずに、目をつむると鮮明に思い出せた。これが私の故郷の風景です。大田へ帰って何十年。毎日見る景色だけれど、それでも、いつ見ても何とも言えない気持ちになる。ここは、本当に良いところだと思うんです。"

琴ヶ浜

砂を鳴らす足の感覚、波の音や潮風に、初対面の私たちを快く受け入れて一緒に歩いてくださった地元の皆さんの懐の深さにも、心癒される時間でした。

多くの人に親しみ愛される琴ヶ浜は、年間を通して浜掃除を行うなど、保全・保護への地元の方々の取り組みも評価され、国の天然記念物に指定されました。

大田市馬路町の琴ヶ浜。
美しい砂から生まれる琴の音と、ずっと続く渚の景色を、是非、歩いてみてください。

夏には海水浴も楽しむことができますよ♪ (琴ヶ浜(島根県自然環境課)