光あれ!石州 勝地半紙(かちじばんし)

 

 

 石見地方は、島根県の西部(浜田市・益田市・大田市・江津市・川本町・美郷町・邑南町・津和野町・吉賀町)を指します。

 その昔は、「石見国(いわみのくに)」と呼ばれていました。

地図

 

 やって来たのは、紙漉きの郷・江津市桜江町の「風の国」の中にある【風の工房】

1玄関

 

 江戸時代から使い続け120年余り―――

 受け継がれし日本遺産(※1)の【甑(こしき)】を拝見したい!

 意気込んだスタッフを出迎えてくださったのは、風の工房の主で、6代目の佐々木誠さん。

2佐々木さんアップ

 

 今回は、石見地方を代表する歴史と伝統を持ちながらも、県内でも知る人ぞ知る・・・

 そんな特殊な背景をもつ江津市の
【石州 勝地半紙(かちじばんし)が主役です。

 

 (※1 日本遺産(Japan Heritage)・・・地域の歴史的魅力や特色を通じて日本各地の文化・伝統を語るストーリーを文化庁が認定したものです。
 (詳しくは、日本遺産ポータルサイトへ))

 

 

 

 さて、皆さんのお手元に【和紙】はありますか・・・?

 現代では貴重となりつつある和紙。学生時代には、習字の授業でお世話になりました。
 金魚すくいのポイに使われているのも薄い和紙です。こちらも大変お世話になりました!

 

 現在、石見地方では、約1300年の歴史をもつ【石州半紙】という楮(こうぞ)の手漉き和紙の文化が継承されています。【石州半紙】は、昭和44(1969)年に国の重要無形文化財に指定され、後の平成26(2014)年にはユネスコの無形文化遺産に指定されました。

 登録された産地は、浜田市三隅町――。

 

 (石州半紙について詳しく知りたい方は【現地レポート「そうだったのか 和紙の魅力を再発見!」】をお読みください。) 

 

 石見地方では、室町時代にはすでに紙漉きが盛んに行われていました。中でも、石州半紙は、江戸時代に全国で5本の指に入る程の有名な産地だったそうです。和紙なのに「水に強い」ことで、江戸時代には一世を風靡しました。

 

 1777年(江戸時代)に出版された和紙のカタログ本『新選紙鑑(しんせんかみかがみ)』(写真)を見てみましょう。浜田藩と津和野藩の産地が紹介されています。

 

 この本には、石見地方全域の地図が描かれています。ドーナツみたいになっている白色の所が「浜田藩」で、突き刺すような形で黄色に塗られている所が「津和野藩」でした。

3新選紙鑑
(『新選紙鑑』1777年)

 

 石州半紙の最大の特徴は「水に強い」ことですが、「産地が1カ所に集中していない」ということも非常に面白い特徴です。材料は同じ楮を使用しつつ、浜田藩と津和野藩ではそれぞれ異なる漉き方や加工をしていたようです。ところが、同じ「石州半紙」として市場に出していました。

4紙鑑34紙鑑4紙鑑2
(石見に伝わる紙漉きの技術を記した『紙漉重寶記(かみすきちょうほうき)』では、当時、東西の産地同士がライバル関係であったことが伺えます。)

 

 

 風の工房がある江津市桜江町は津和野藩の東の果てにあり、「市山(いちやま)」の辺りに位置しています。

5地図アップ

 峠を挟んで浜田藩の「市山」と津和野藩の「長谷(ながたに)」に分かれ、また、邑南町の「日貫(ひぬい)」までの一帯が各藩の有数の産地として栄えていました。

 とりわけ「市山」は、石州半紙の中でも【市山半紙】と呼ばれ非常に人気があった和紙でした。

  

 また、明治時代になると「市山」と「長谷」がひとつの産地になり、市山に大きな問屋があったことから【市山半紙】という名前で市場に出るようになりました。

 

 その後、大正時代には、柳宗悦を中心に民芸運動が起こり、石州半紙は石見地方の民芸として猛烈に後押しされました。柳は市山半紙が大好きで、石州半紙を語る際は必ず「市山半紙」を登場させるほど熱烈なファンだったそうです。

6賞状
(審査員に「柳宗悦」の名前が書かれた賞状も展示されてあります。)

 

 ――しかし!

 民芸運動の父・柳にも見初められた【石州半紙】でしたが、近代化の波には逆らえませんでした・・・。

 約50年前、和紙の値段が暴落してしまいます。

 それをきっかけに、文化庁は大慌てで文化財登録に向け動き出しました。

 

 そしてこの時、悲劇が起こったのです・・・

 なんと、市山半紙(旧桜江町(※2))・・・大失敗!!!

 (※2 旧桜江町は、平成16(2004)年10月1日 に 江津市に編入)

 

 さっそく担当者は石見地方の職人たちに調査を開始――。

 当然、市山半紙も調査の対象になりました。そこで、市山半紙の産地(旧桜江町)の代表的存在であった佐々木さんの伯父・原田宏さんに電話をしました。

 

 プルルルルル・・・・・・ガチャ!

「はい、原田です」

「ああ、原田さん? 今、なに漉いとる?」

「今かぁ? 今は障子紙を漉いとる」

「障子紙・・・? そうか。わかった」

 ガチャ。ツーツー。

 

 さあ大変。担当者は、原田さんの言葉をそのまま受け止めたため、何年も障子紙だけを漉いていて、半紙は漉いていない!と解釈し、そのまま文化庁に報告してしまいました。

 

 このことにより、いざ登録!というときに、発表された石州半紙の製造業者の中に原田さんの工房の名前が無かったのです・・・!

 登録には、旧桜江町では4軒の工房が挙げられましたが、代表的な存在である原田さんの名前が無いことで、全ての工房が石州半紙の製造業者という権利を得ることを堅く固辞されてしまいました。

 

 そうして、市山半紙と呼ばれ全国的に非常に人気の高かった産地が、あっけなく「石州半紙」から消えてしまったのです・・・。

 

 ~~ ~~

 

 現在、市山半紙は【石州 勝地半紙(かちじばんし)という名で、佐々木さんがその技術を受け継いでいます。「勝地」という名前は、伯父・原田さんの工房があった桜江町長谷地区の集落からとりました。

 その昔、毛利と尼子が戦をして毛利側が勝ったことから「勝地」という地名になったのだとか。

7佐々木さん説明
(【石州 勝地半紙】について説明してくださる佐々木さん)

 

 「石州半紙」という名前を失い、これまであった知名度が一気にゼロになった・・・と苦しいなかで文化継承に奮闘している佐々木さん。そんななか、光が差す出来事も増えてきたのだとか・・・!

 その源が、明治時代から120年使い続けているという日本遺産の【甑(こしき)でした。

8甑8甑2

 甑とは、米などを蒸すための大型の蒸し器のことです。和紙づくりにおいては、材料の楮を蒸すために甑を使います。その作業を「そどり」といいます。

 

 明治時代の木の甑を受け継ぎ、使い続けている工房は今では「石州 勝地半紙」だけとなりました。他の産地は早くに近代化し、木から金属へ材料を変え、形や大きさも釣り鐘型から蒸籠型に小さくなっているそうです。

 風の工房にある甑は、かなり巨大です。直径1m40cm・高さ1m70cm!

9甑3

 人がスッポリと入る大きさ・・・!

10甑4

 下の竈に水を入れ、束ねた楮を立てて、甑をかぶせます。そのまま4時間ほど蒸し上げます。

 

 「そどり」は、毎年12月に行います。甑が大活躍するので、ぜひ間近でご覧くださいね!

 自由に見学ができるそうです!(詳しくは、お問合せください。)

 

 この「そどり」の様子は、近年メディアにも取り上げられることが増え、冬の風物詩にもなっています。また、全国放送のテレビ番組や地元新聞などの取材も来るようになり、少しずつ注目を集めているそうです。

 

 今でも「石州半紙」ではないという理由で注文がキャンセルされることもあるのだとか・・・。

 しかし、佐々木さんは、テレビや新聞で様々な方面から知ってもらえる機会が増えることで、今の空気が少し変わるかもしれない!と、期待を膨らませています。

11佐々木さん

 逆境に負けず、現代の生活様式にあわせたユニークな和紙商品を開発したり、身近に感じてもらえるように工房で紙漉き体験などを行っていたりします。

12内観
(展示室 内観)

13ねこグッズ13ねこグッズ2
(ねこグッズ!丈夫で温かみがありますね!)

14御守り
(「勝地」という地名にあやかった、勝ち招き猫の御守り!受験生に大人気!)

15和紙いろいろ15和紙いろいろ2
(和紙も充実しています!)

16レリーフ
(細部まできめ細かな龍のレリーフ・・・!圧巻の迫力!)

17ライト17ライト2
(ライトも!?やわらかな灯りが目に優しく癒されます!)

18マスク
(“洗える”マスクまで作っちゃいました!?)

 

 

 などなど・・・!

 全て、和紙でできています!!

 他にも、水に強いという特徴を生かしたボディタオルもあるそうです!肌に優しいと人気の商品なんですよ。

 

 気になったら、ぜひ「風の工房」へ行ってみてくださいね!

 素敵な和紙と、とっても面白いお話が聞けますよ!

 

 

 

石見の誉!石州 勝地半紙!

これからもっと光が当たり、多くの方々に好きになってもらえますように! 

江津の石州勝地半紙で世界を征す。アツいぜ!江津!!

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【お問合せ先】

石州勝地半紙

島根県江津市桜江町長谷2696

TEL&FAX 0855-92-8118

 

(参考)

日本遺産ポータルサイト

 

 

取材へのご協力、ありがとうございました! 心より、感謝申し上げます。