石見神楽の魅力
2019年01月10日
10月。この時期の石見地方は、毎日どこかで石見神楽の公演があるといっても良いほど。
石見神楽とは、島根県西部の石見地方に古くから伝わる伝統芸能。
元々は五穀豊穣に感謝し、秋祭りに奉納するものとして、神職によって舞われる神事であったものが、明治政府から神職の演舞を禁止する達しが出たことにより、土地の人々の手に受け継がれ、郷土芸能として進化していったようです。
その特徴は、華麗で勇壮な舞、軽快なテンポ、豪華絢爛な衣装、明快なストーリー、そしてその人気でしょうか。石見地方では、子どもから大人まで、三度の飯より石見神楽が大好き、その存在は生活の一部になっているとか。
今回はそんな石見神楽を体験しに、浜田市を訪れました。
まず訪れたのが、「神楽ショップくわの木」。
「リフレパークきんたの里」に隣接する、石見神楽最大規模の衣裳工房です。
入ってすぐ、豪華な衣装が目に飛び込んできます。
店内の様子
そして奥には、洋服店のように並べられた沢山の衣装が!値札も付いています!!
店内には沢山の衣装が...
神楽ショップくわの木店内
確かに、ここは"神楽ショップ"。神楽に使用する衣装など制作し、販売するところ。
当然ここで神楽の衣装や道具を選び、買っていく方がいるのでしょうが、神楽が非日常な私にとっては、不思議な光景。
そういえば、浜田市のマーケットに寄った際も、お店の一角に、普通に神楽の道具が売られていて驚きました。本当にこの地方では、神楽=日常なんですね。
お店の奥には工房もあります。
この日はお休みで作業の様子は見れませんでしたが、作業途中のものなど見学させてもらいました。
作業途中の作品
蛇胴作製中
金糸、銀糸が贅沢に使われた立体的な美しい刺繍!"ニクモチ"というらしい・・・。
血走った眼球が迫力あります。
迫力のある刺繍
こうした贅沢な刺繍が施された神楽の衣装は全て手作り!制作には数か月から半年かかり、各社中がそれぞれにデザインを工夫し個性を生かしているため、一つとして同じものはないというから驚きです!!豪華絢爛な衣装も、石見神楽の見どころの一つです。
「神楽ショップくわの木」については⇒ 浜田市観光協会「はまナビ」へ
石見神楽にかかせないものにはお面もあります。
全国的に、面は木でつくるところが多いようですが、石見神楽のお面に使用されているのが石州和紙。あの堅い面が、紙でできているんですね!
石見地方にはおよそ1,300年の歴史がある、石州和紙という手漉き紙があり、なかでも「石州半紙」は国の重要無形文化財にも指定されています。ただ、明治時代には6,000軒を超す事業所が営んでいたものが、年々減少し、現在では4軒に。
そうした背景から、後継者の育成と事業所の支援、普及、利活用の推進を目的として2008年に開館したのが「石州和紙会館」です。
石見神楽になくてはならない石州和紙。私達はこの石州和紙会館にも行ってみました。
石州和紙会館
館内の様子
館内の様子
こちらでは、石州和紙の歴史や特徴、製造工程の説明、また和紙製品の紹介がしてあり、石州和紙について詳しく知ることができます。また工房もあり、紙漉き体験も可能です。
製造工程の説明
歴史的資料の展示
かつては大阪商人が石州半紙を帳簿に用い、火災のときいち早く井戸に投げ込んで保存を図ったとか。
光沢があり、とっても強い石州和紙。
そんな石州和紙の特性を生かしてつくられた作品たち。
色や柄もかわいい雑貨が沢山
かわいい柄の雑貨や、え!?これも和紙で出来ているの?と驚くものまでありました。
石州和紙で作った動物たち
ウェディングドレス
そして石見神楽の面。
石見神楽の面
衣装同様、面についても各社中によって表情が違うそうです。そしてそれは代々引き継がれるもの。型を粘土、面を和紙で作るからこそ、それぞれ複雑な表情の型を残すことが可能に。
さらに動きの激しい石見神楽には、この強くて、軽くて、息のしやすい石州和紙で作った面があっているのだとか。
「神楽ショップくわの木」「石州和紙会館」・・・この2つを見学し、石見神楽に使用される衣装やお面、また石州和紙といった伝統工芸が、石見神楽への思いと共に現在にも受け継がれ、作り手や関わる人達がいることも、石見神楽を支えている重要な要素だと知ることが出来ました。
石州和紙会館については⇒浜田市観光協会「はまナビ」へ
地元の皆さんに支えられ、愛される石見神楽。
石見地方で行われる神楽はどんな雰囲気なのか。いよいよ石見神楽体験です!
今回私達がお邪魔したのは、浜田市旭町にある「旭温泉あさひ荘」。
こちらでは9月初旬から11月半ばまで、毎週土曜日の夜に"湯ったり神楽"として石見神楽を楽しむことができます。
旭温泉あさひ荘
上演開始は午後8時30分から。
会場は休憩棟の和室2間分。舞台と思われる所にはシートが、客席には座布団が置いてあり、神楽の舞台と客席の間には仕切りも段差もありません。
開演時間が近くなると、地元の方や、親子連れ、浴衣をきた宿泊客など、次々と集まって来ます。私達も前の方の席(座布団)を確保し、どきどきしながら開演を待ちました。
ほどなく、司会の方が本日の演目など紹介され、お囃子とともに神楽がスタート。
最初の演目は"恵比寿"です。
"恵比寿"は、出雲の国、美保神社の御祭神、恵比寿様が磯辺で釣りをしている姿を舞ったもの。
軽快なお囃子と共に、にこやかな恵比寿様が登場。
さらに小さな恵比寿様も登場!
二人の恵比寿様のコミカルな動きが面白おかしく、会場も笑いと拍手で和やかな雰囲気に。
恵比寿様が福飴を撒く際には大人も子供も大興奮です。
恵比寿様も、時に観客とコミュニケーションをとったり、客席に入ってきたり、舞台と客席が一体となって盛り上がりました。
"恵比寿"が終わり、次の演目までの時間、お値段が数百万円もする貴重な衣装"鬼着"を実際に着せてもらいました。
感想は・・・重い!動けない!
あまりに重いので、この衣装を着て、舞台で舞ってるのが信じられません。
舞子の方達の凄さをあらためて実感させてもらったところで、次の演目は大人気"大蛇"です。
この演目は高天原を追われた須佐之男命が、出雲の国斐の川で、人々を苦しめる八岐の大蛇を退治し、稲田姫を救うストーリー。
島根県民なら一度は見たことのある演目ではないでしょうか。私もお祭りなどで何度か見たことがあります。
・・・が、今回の"大蛇"は一味も二味も違いました。
まず、オープニング。
姫が大蛇に襲われる"姫取り"のシーン。スモーク?が焚かれ、姫を飲み込む大蛇のおどろおどろしさが一層際立ちます。
舞台のみならず客席までたちこめるスモークに、私達も演目中の物語に入り込んだよう。
その後も、スサノオと大蛇の闘いの中、火を噴きながらステージ一杯に暴れ舞う大蛇や、迫力ある蛇胴巻きなど、次々と見せ場が登場し、息つく暇もないほど。
スサノオと大蛇の闘い
近いので迫力満点!
何よりも、その近さが通常の神楽と全然違います。子供達はスサノオと一緒になって、大蛇をやっつけようと攻撃したり、大蛇の首を恐る恐る触ってみたり、逃げまわったりと、じっとしていません。
蛇巻き
蛇巻き2
大人の観客もスサノオに声援?を送ったり、拍手をしたり、思い思いに神楽を楽しんでいます。
ああ、これが石見神楽なんだなぁ・・・
身体で感じる迫力、思わず踊りたくなるようなお囃子、そして心の底から神楽を楽しむ、リラックスした雰囲気。
予備知識などなくても、その魅力にぐいぐい惹き込まれます。
やっぱり石見神楽は石見の地で体験するのが一番。
石見地方では、小さい時から石見神楽が当たり前に身近にあって、お祭りの度に近所の人や家族と楽しい時間を過ごし、神楽の中に出てくるヒーローに憧れ、大人になれば神楽の練習に参加する。
それは伝統芸能という堅苦しいものではなく、まさに"生活の一部"として、自然と身体に受け継がれてきたのかなと実感しました。
現在、浜田市だけでも社中の数は50以上!神楽の演目は30種類にのぼります!
こんなに楽しい石見神楽の世界、私ももっといろいろな神楽をこの石見の地で体験し、その魅力をもっともっと感じたいと思いました。