三隅の一本桜<壱>
2017年05月04日
今年も桜の季節が過ぎました。
暖かな季節を迎えることへの喜びと同時に、少しの名残惜しさも感じる季節です。
みなさんのお住まいの地域に、桜の木はありますか?
今日は、浜田市三隅町に根を下した、いくつかの一本桜のお話です。
浜田市三隅町。ここに有名な一本桜があると聞き、下見に出かけていったのは3月の終わり頃。
土地の名が付く、『三隅大平桜』。その木を目にした時の驚きは、とても大きなものでした。
国の天然記念物、三隅大平桜。
樹齢は推定670年。木の後ろに建つ旧家大平家の祖先が、馬をつなぐためにこの木を植えたと伝わります。
幹周は6~7m。横に向かって大胆に伸びる枝。その枝張りは、20~30m。樹種はヤマザクラとエドヒガンの種間交雑という大変珍しい品種、大平桜。太く伸びる枝が4本。以前は11本あったそうですが、落雷や山火事によって今の姿になったとのこと。それでもなお、圧巻の姿。
まだ咲かない桜の木に、こんなにも心を動かされたのは、初めてのことでした。
この日は、三隅大平桜を守る樹医さんの案内で、特別に柵の中に入って間近に木を見せていただくことができました。
地面に沿うかのように横へと伸びる枝。いくつかの木が束になったかのような太い幹。とても1本の木とは思えない存在感。この地に根を下ろし、670年。途方もない時間。いびつな美しさに生命を感じる、大きな、大きな木です。
所々に見える治療の跡に、この桜が大切にされてきたことを窺い知ることができます。
山桜というのは、若芽のときに他の木や竹に負けて陽が当たらずに枯れてしまったり、動物に食べられたり、人の手によって切られてしまったり、斜面に育ったために倒れてしまったり...こうして何百年と生き永らえることができる桜は一握り。その木の宿命なのだと、樹医さんは教えてくださいました。
風に吹かれ、雨に打たれ、生きてきた姿。その幹に、その枝に、計り知れないものを感じます。
そして、もうひとつの驚き!
この木の中にある、670年を生き抜いた生命力の一端を見せていただきました。
樹医さんが指をさした幹の一点に、少しだけ穴の開いた箇所が!
これは大変!!
ですが!正にそこに、大きな秘密が現れていました。
良く目を凝らしてみると・・・
傷ついた部分から細い細い根が生えているのが見えます。
幹の間に見えた無数の根は、「不定根」。根が弱ると幹や枝の腐朽部分や損傷部付近から根を下し、栄養を補給することで樹勢を回復させ、生きるのだそうです。
この太い幹の間にはたくさんの不定根があり、670年間、命を繋いできました。
満開の姿は、降り積もった雪の小山のようと称される、三隅大平桜。
"派手さはないけれど花付きが良く、とても可愛らしい花を咲かせるんですよ。"
と、微笑んだ樹医さんのお顔が心に残り、どうしても見てみたくて再度訪れたのは4月の頭。
満開の桜を見に・・・
来たつもりでしたが、
なんと今年は例年より開花が遅れていて、開花したばかりの状態でした。
旅先で出会う桜とのご縁。
満開の桜が見られればそれはとても素敵なことですが、一部咲きの姿でも、こんなにも心を惹きつける桜の木です。
満開の素晴らしさを想像して、また訪れるときの楽しみにしたいと思います。
三隅大平桜が立つ広場では、毎年4月上旬に『大平さくらまつり』が開催され、県内外から2千人以上の方が来られるそうです。
自らの運命をその太い幹の中に抱きながら生きる、孤高の一本桜。
私たちを魅了するのは、そんな生き方が現れているからなのかもしれません。(三隅大平桜 )
三隅の一本桜。これで終わりではありません。
次にご紹介する一本桜。若く小さなその木には、350年を超える物語が秘められていました。
>>『三隅の一本桜<弐>』