「日本の棚田百選」とは、
(1)営農の取り組みが健全であること、
(2)棚田の維持管理が適切に行われていること、
(3)オーナー制度や特別栽培米の導入など地域活性化に熱心に取り組んでいること
これらを基準に日本全国のなかから選定し、平成11年に農林水産省により認定されたもののこと。

島根県内からは、7市町村7地区の棚田が選ばれています。
その中で、島根県最西端にあるのが、鹿足郡吉賀町柿木村の『大井谷棚田』です。

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歴史あるこちらの棚田は、およそ600年前に大内氏(山口)に仕えた三浦一族がこの地に入り、開拓したのが始まりと言われています。
今日に至るまで、何度も積み直しや補修を重ね、なんと、室町時代から江戸時代にかけてつくられた田んぼが今も600枚以上残っているそう。
現在は、約8ヘクタール、400枚を耕作。四季折々に変化する棚田の様子を伺うことが出来ます。

大井谷の棚田の展望台から見渡してみると、南向きの斜面により日当たりが良いことや、山に切り込むように棚田がつくられていることが確認できます。
棚田に適した素晴らしい環境が作り上げられていました。

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展望台から降りて、棚田を散策します。
綺麗だな~と、のんびり坂道を歩いていたこの時には知らなかったことですが、大井谷の棚田は、しまね景観賞において受賞歴がありました。(平成14年に景観大賞、平成21年には貢献賞を受賞しています。)

私が体感したように、この温かみを感じる風景が、多くの人の心を掴んだのでしょう。
何度も選ばれる風景は、まさに何度でも訪れたくなる風景です。

棚田に満ちる水

段々畑

棚田での作業風景

さらに続く坂道をいけば、棚田の石積み、観音様、美しい花々(吉賀町に咲いている花はなんだか色が鮮やかだと思うのです。)など、たくさんの見所と遭遇。
中でも気になったのは、民家の蔵にあった鏝絵(こてえ)。
石見地方の左官職人が得意とした漆喰で飾る鏝絵は、江戸時代中期から各地に広まった技術です。「庶民の文化・芸術」と呼ばれつつも、国会議事堂や明治生命館など、高名な建物の装飾を手掛けることもありました。
石見の左官職人や鏝絵のことは知っていたのですが、吉賀町のお宅で「作品」を見るのは初めて。
鏝絵の持つ、さりげない美しさが大井谷の棚田に、よく馴染んでいるようでした。

坂道とバス

観音様

鏝絵

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さて、坂道を上り続けて棚田の最上部へ。ここには少し珍しいものがあるようで・・・。

ありました!こちら「助(たすけ)はんどう」です。

 助はんどうへ

助はんどう

助はんどうから溢れる水

これを見なきゃ、大井谷の棚田のことは語れない。
干ばつの年に、ここに溜まったわずかな水が人々を助けたという逸話が残っている場所です。(「はんどう」とは水瓶のこと。)

この「助はんどう」今ではシンボルのような存在になっていて、住民全戸参加の棚田保全組織の名前も「助はんどうの会」。この会では、棚田オーナー制度、トラスト制度の導入や、棚田まつりの開催などを行っています。

交流人口の創出や棚田保全に努める取り組みは、この名の下に行われているのですね。
ここで農耕に従事する方々が、自然を大切にして、共に生きてきたことをもの語るような、意味深長なお名前です。

高齢化やそれに伴う従事者の減少など、今現在直面されている課題もあるなかで、棚田を活かした地域づくりを推し進める力は、とてもパワフル!
『大井谷の棚田』に来てパワーを分けてもらえたような心地がしました。

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島根県内の棚田を総括している『しまね棚田元気ネット』というホームページがあります。
島根県内7市町村11地区の棚田についての情報が満載。
棚田オーナーの募集や棚田のイベント、棚田米などに関する最新の情報から棚田の基本情報まで。棚田に行く前、行った後、読めば発見がありますよ。

その『しまね棚田元気ネット』のトップにある文章が素敵だったのでご紹介します。

『まずは棚田のお米を食べてみる。
 あるいは棚田に行ってみる。
 頑張って米を作るのも楽しいかもしれない。
 そんなふうに棚田と仲良くなると、なぜか人は元気になるのです。』

お米を食べる、棚田に行ってみる、作ってみる。
ハードルが高いと思っていたけれど、このことばが心に響いて、

作るのも、楽しいかも...!

と想像している自分がいます。俄然、棚田に興味が湧いてきましたよ。

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島根県の棚田は、個性豊かで美しい。この気持ちはきっと多くの人に分かってもらえるはず。
そう思う度に、より多くの人が棚田について関心を持ってくれますように、と思うこの頃です。
まずは棚田を訪れることから始めてみませんか?

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大井谷の棚田

助はんどう2

山並みと棚田