毎年6月中旬、島根にも夏の気配が漂い始める頃、出雲市斐川町神庭の静かな谷間が賑わいます。

ここは、国の史跡『荒神谷(こうじんだに)遺跡』。
昭和58年からの発掘調査で見つかった大量の青銅器群(銅剣358本、銅鐸6個、銅矛16本)が出土した場所。田んぼのあぜ道で拾われた一片の土器から始まった奇跡の大発見には日本中の注目が集まり、この小さな谷間が日本の歴史を揺るがしました。

荒神谷遺跡

ずらりと並んで埋められた銅剣は弥生時代の銅剣としては日本最多の数を誇り、これらの青銅器群は国宝に指定されています。

近くに祀られている三宝荒神から名づけられた『荒神谷遺跡』。
日本の考古学史上でも歴史的な発見と言われる青銅器群ですが、誰が、どんな目的で、何故、この場所に埋められたのかは未だに謎のままなのだそうです。

古代の謎と浪漫が残る荒神谷遺跡は『荒神谷史跡公園』として整備され、敷地内の『荒神谷博物館』では荒神谷遺跡の謎を詳しく学ぶことができるようになっています。その他にも、古代復元住宅や古代米農耕地等、古代の生活に触れることができる見どころがありますよ。(出土品の実物は、出雲市大社町の「古代出雲歴史博物館 」に展示されています。) 

そんな、荒神谷の夏。
公園内の池に、約5万本ものハスの花が咲き乱れます。

約5万本ものハスの花

大きく美しいハスの花。背丈は横に立ってみたところで1m以上あるものもあり、花は両掌を広げたくらいの大きさ。
気品の漂うピンク色の大輪に惹きつけられ、平日にもかかわらず多くの方が訪れていました。

本格的なカメラを構えた方々の姿も。
そのままの姿を捉えて残したくなる気持ち、分かります。こんなにも美しい光景なのですから。

ハスの花

ハスの花

ハスの花 

しかし、実はこのハスは、ただのハスではないのです。
ここにも古代浪漫を感じさせる物語が隠されていましたよ。 

二千年ハス池

この池の名前は、『二千年ハス池』。

ここに咲くハスは『二千年ハス』。正式名を『大賀(おおが)』ハスと言い、昭和26年に千葉県検見川の落合遺跡から発掘された丸木船に付着していた僅か3粒の種子の1粒を、大賀一郎博士が発芽させ、現在に蘇った奇跡のハス。

ハスの花

当時の研究では二千年前の種子と推定されたことから二千年ハスと呼ばれていますが、その後の研究により三千年前という説が有力になっているのだそうです。

荒神谷遺跡の二千年ハスは、大賀博士本人が島根県大田市に贈ったものを、昭和63年に譲り受け、育てられたものです。 

数千年の眠りから目覚めた2つの衝撃が、この地に繋がり、今、私たちを惹きつけている不思議。時を超えて咲く大輪の花に、ここに埋められた青銅器たちの謎。

開花から数日程で命を終えるというハスの花の儚さにもまた魅了される、荒神谷の夏です。

ハスの花

ハスの見頃は、6月中旬から7月下旬にかけて。朝に咲いて夕暮れには閉じてしまう花のため、午前中が一番きれいに見ることができます。

毎年7月初旬には荒神谷ハス祭が開催されます。私たちはお祭の前に訪れたため体験できませんでしたが、ハスの葉に注いだお茶等を茎のストローで飲む象鼻杯席等、楽しい催しで賑わいます。

二千年ハスの葉が杯のように
二千年ハスの葉が杯のように

象鼻杯席...

子供心の浪漫を感じるのは私だけでしょうか。

"一度やってみたいなぁ。"と、象鼻杯に心を残しつつ、公園内を少し散策。

南に少し坂を上ると、大きな池がありました。

西谷池(荒神谷史跡公園)
西谷池(荒神谷史跡公園)

池沿いの道には紫陽花も咲いていて、歩くのに気持ちの良い道です。

池の中には白いスイレンも咲いていました。

白いスイレン

可愛らしい純白のスイレン。

大輪のハスとはまた違った美しさを見せてくれました。

水辺の小径(荒神谷史跡公園) 
水辺の小径(荒神谷史跡公園)

更に行くと広場があり、一角に『古代復元住宅』が建てられていました。中に入ることもできましたよ。

古代復元住宅
古代復元住宅

古代復元住居(中からの写真)
古代復元住居(中からの写真)

思った以上に広く、外と比べて随分涼しい内部。"ここでなら暮らせるかもしれない。"と思えるほどの過ごしやすさにびっくりしました。

中に風が抜けるように設計されているようで、古代の人の知恵深さを実感させられます。

そんな見どころ満載の荒神谷史跡公園は、なんと27.5ヘクタールもの広さがあり、二千年ハスの時期以外にも、春の椿も見事なものなのだそうです。

お天気の良い日には、ピクニックをするのも良さそうですね。

古代からの息遣いを感じる、荒神谷遺跡。謎と魅力の詰まったこの場所へ是非、出かけてみてください。 

説明

ハスの花

西谷池(荒神谷史跡公園)