未来へつなげよう!~石見銀山捲(まき)上げ節~【後編】
2024年01月12日
未来へつなげよう!~石見銀山捲(まき)上げ節~【後編】
【石見銀山捲(まき)上げ節】は、石見銀山の歴史と深い関わりがあります。
島根県大田市には、石見銀山遺跡の歴史を知るために欠かせない場所があります。それは、資料を保存し、研究する施設です。
「石見銀山捲上げ節」についてもいくつかの資料があるということで、島根県立大学短期大学部の梶谷教授の紹介で、石見銀山資料館の仲野義文館長に会いに行きました。
(いも代官ミュージアム(石見銀山資料館) 外観)
訪れたのは、大田市大森町にある「いも代官ミュージアム(石見銀山資料館)」。
ここは、地域の方々から寄贈された資料の保存などをしており、石見銀山に係る歴史や文化を後世に伝える拠点となっています。
実はここにも秘話があります・・・。
1976(昭和51)年、後に石見銀山資料館となる建物は老朽化のため解体する計画がありました。しかし、貴重な文化財として歴史を守り文化を受け継ごうという思いから地元有志の方々が立ち上がり、大田市から建物を譲り受け、民間の資料館として開館しました。
(資料館の玄関・廊下・部屋)
建物の老朽化した部分は改装され、築120年を迎えた現在も趣深いステキな空間が残っています。
現在は「いも代官ミュージアム」という愛称のもと、(NPO)特定非営利活動法人石見銀山資料館が運営しています。
(入口の門にはお芋が吊してあり、なんだかワクワクします)
そこで私達は、石見銀山捲上げ節について、仲野館長に歴史的な側面からお話を伺いました!
(いも代官ミュージアム(石見銀山資料館) 仲野義文館長 ※提供:石見銀山資料館)
【Q1】今回の保存プロジェクトに参加した理由(きっかけなど)を教えてください。
【A】
島根県立大学の梶谷先生が、「歴史的なことは、石見銀山資料館に聞くべし!」ということで教育委員会から紹介を受けて来られたのが最初のご縁でした。そこで、実際に踊れる地元の方々をご紹介しました。
実のところ、僕は「捲上げ節」で描かれているように「女性が鉱石を捲き上げていたというのは嘘なんじゃないか?」と疑っていました。なぜなら、「動力が電気の近代に入って、人力で捲き上げるということ自体が、ちょっと考えられないな」と思っていたんです。
ところが、実際に人力で上げていると書かれた明治時代の資料が見つかりました。加えて、労働歌というものは、鉱山ではつきものなので、まんざら嘘でもないんだなぁと、実感しました。
(明治頃、藤田組の時代に書かれた鉱山の概況についての資料 ※提供:石見銀山資料館)
【Q2】石見銀山の歴史を知るうえで「石見銀山捲上げ節」はどのような存在でしょうか?
【A】
石見銀山は、そこで採掘した銀が海外と繋がり、ヨーロッパと日本が交流して様々な影響を受けたから世界遺産になったという背景があります。ただし、それは「銀」の話であって、鉱山そのものの話ではないんですね。
鉱山というのは、いわゆる地下なんです。地下の狭い中でどういう人達が、どんな労働をして、どんな暮らしがあったのかが、「鉱山」を伝える上で重要なことです。そういった点において、この「捲上げ節」はとてもリアリティがあって有効かもしれませんね。
【Q3】この保存プロジェクトは「未来へつなげよう!」がテーマとなっています。「これまで」と「これから」に向けて、資料館としてどのような思いをおもちでしょうか?
【A】
石見銀山資料館はもうすぐ50周年を迎えます。建物は2022(令和4)年に120歳になりました。皆さん、遺跡ばかりに注目しがちですが、世界遺産であることを確実にしているのは、やはり資料なんですね。実は、資料と現地がセットになっているということが重要なんです。
石見銀山資料館としては、やはり、当時の実態を知ることができる資料を保存し、未来につなげていくという使命があります。
そして、僕達は単に残すだけではなく、その中にある沢山の「活用の大きな種」を活かしながら、観光・まちづくり・商品開発などにつなげていく取り組みをしています。
(大森町町の町並み)
【Q4】石見銀山捲上げ節保存プロジェクトを通して、子ども達に何を伝えたいですか?
【A】
これは本当に難しいです。改めて思いましたが、大森町の場合は特別なことではないんですね。小学校では小学校で、町の人は町の人で、色々な行事で「普通」にやっているんですね。だから「保存」ではなく、それが「当たり前のことになっていく」というのが、一番重要なことかもしれません。
その基は、コミュニティがしっかりしているということですよね。要するに「地域の文化財を地域の人が守る」ということです。これは、そもそも住民自治の基本中の基本ですから、地域の課題を地域の人達で解決していくことは、現代では、もう普通のことなんですね。
そして、ユネスコがグローバルストラテジーという戦略を出し、日本国内で世界遺産の話が起きたとき、その「きちんと守ってきた」ことと「世の中の大きな流れ」がちょうど上手く噛み合ったからこそ今があるのかな、という気がします。
(いも代官ミュージアム(石見銀山資料館)の館内に展示された当時の銀山坑内の模型)
仲野館長から、沢山のとても興味深いお話をお聞きしました!
大森町の方々は、地元の歴史・文化を「当たり前の生活」として大切にしてきたことが分かりました。だからこそ、今日まで石見銀山遺跡や、歴史的建造物、そして捲上げ節といった唄が継承されていったんですね。現在も、大田市立大森小学校では、運動会などで「石見銀山捲上げ節」を踊るそうです!
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最後に、このプロジェクトを締めくくる大舞台に私達は参加しました!
2023(令和5)年10月15日(日)、大田市で島根県フォークダンス連盟創立55周年記念大会が開催されました。
完成した石見銀山捲上げ節のパンフレットがお披露目されるという情報を聞きつけ、私達は会場の大田市総合体育館に駆けつけました。
(会場の大田市総合体育館 入口)
記念大会では、捲上げ節のパンフレットが配られ、地元有志の方々が参加者とともに捲上げ節を踊りました。
会場には、来賓として大田市教育委員会の武田祐子教育長が参加されていました。
(会場でフォークダンスを踊る参加者の皆さん)
(大田市教育委員会 武田祐子教育長)
開会式の前、慌ただしい中・・・武田教育長が、インタビューに答えてくださいました!
【Q1】大田市にとって今回の保存プロジェクトは、どのような意味をもつでしょうか?
【A】
まず、市民全員はもちろんですが、特に次の世代の子ども達が「銀山労働の際に女性達が唄ってたくましく生きてきた、その歴史がある町に自分達はいるんだ」という気持ちを新たにもってくれるきっかけになると強く思いました。
また、石見銀山は「ちょっと分かりにくい世界遺産」と言われます。捲上げ節の唄や踊りを受け継ぎ伝えていくことで、その分かりにくい側面に新たな魅力や価値を発見できると感じます。
何より、元気に活躍されているフォークダンスの皆様のお力で県内外に発信されるということは、すごく大きな意義があります。
(参加者に捲上げ節の振付を指導する島根県フォークダンス連盟の出構会長)
【Q2】この保存プロジェクトは「未来につなげよう!」がテーマとなっています。「これまで」と「これから」に向けて、どのような思いをおもちでしょうか?
【A】
捲上げ節のように、文化として残っている唄や踊りはだんだんと光を失っている状況にありました。その中で、改めて光を当て、蘇らせていただけたことはとても有り難いです。
今度は、「銀山労働の歴史がある町」であることの意味を自分達がしっかりと咀嚼し、活用していかなければなりません。地元有志や保存プロジェクトに参加された方々の努力を大田市の宝として次へつないでいく・・・それが恩返しだと思っています。
【Q3】保存プロジェクトを通して、子ども達に何を伝えたいですか?
【A】
男性だけじゃなく、女性や子どもも銀山の過酷な労働に加わり、何かしらの関わりを持っていたという歴史とその生命力を、パンフレットや唄、踊りを通して学んだり、身につけたり、口ずさんだりすることで、子ども達にもその思いを受け継いでもらいたいです。
【Q4】保存プロジェクトを通して、地域の大人達に何を伝えたいですか?
【A】
廃らせてはいけません!
「石見銀山捲上げ節」を覚えている30~90代の方々が元気な今、形になったことに感謝の気持ちをもち、私達大人が次につないでいくことこそが使命です。そうで無ければ、このまま埋もれてなくなっていたかもしれません・・・。
大田市が率先してやるべきことでしたが・・・この度のフォークダンス連盟の皆様や、有志の皆様の取り組みに感謝しています!
(会場で参加者と一緒に踊る大森町の有志の皆さん)
(武田教育長も参加者と一緒に捲上げ節を踊られました!)
武田教育長からは、地元大森町の方々だけではなく、大田市としても石見銀山捲上げ節を「未来につないでいきたい!」という熱い思いを伺うことができました!また、そこには今回のプロジェクトに関わった方々への大きな感謝の気持ちがありました。
この度、梶谷教授をはじめ、様々な方々に取材をさせていただきました。
改めて、皆様のご協力に心より感謝申し上げます。ありがとうございました!
そして、「石見銀山捲上げ節」が地域を越え、多くの方々に愛され、未来に継承されていくことを願います。これからも応援しています!
ぜひ、パンフレットや実際の唄・踊りを見て、聞いて、踊ってみてくださいね!
(石見銀山捲上げ節パンフレット ※提供:梶谷朱美教授)
(しまねまちなび情報コーナー 大田市エリアにて配布しています!)
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【石見銀山捲上げ節パンフレット・DVDのお問合せ先】
公立大学法人島根県立大学短期大学部 短期大学部長
保育学科 教授 梶谷朱美
住所:島根県松江市浜乃木7-24-2
TEL:0852-26-5525(代表)
MAIL:a-kajitani@u-shimane.ac.jp
住所:島根県大田市大森町ハ51-1
TEL:0854-89-0846
FAX:0854-89-0159
開館時間:9時30分~17時
休館日:火曜日・水曜日、12/29〜1/4
▸▸▸完◂◂◂
取材へのご協力、ありがとうございました!心より御礼申し上げます。