未来へつなげよう!~石見銀山捲(まき)上げ節~【前編】

世界が認めた日本の鉱山遺跡・・・それが島根県にあることは、全国でも広く知られていますね。

石見銀山遺跡とその文化的景観】は2007(平成19)年7月に、鉱山遺跡としてはアジア初となる世界遺産に登録されました。

島根県にとっても、また、日本にとっても、地域の歴史・文化を語るための大変貴重な遺産であることが世界に認められたのです!

1大久保間歩入口
(石見銀山遺跡(大久保間歩入口))

1大久保間歩内部
(石見銀山遺跡(大久保間歩内部))

1大森町の町並み
(大森町の町並み)

 

登録から約15年後の2023(令和5)年春、島根県大田市でとあるプロジェクトが幕を開けました。

 

石見銀山捲(まき)上げ節保存プロジェクト

  ――そこから見えてきたのは、鉱山で働いた女性達の知られざる苦労の歴史でした。

 

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さて、ここで「石見銀山捲上げ節とはなんぞや?」と思われたことでしょう。

石見銀山捲上げ節は、銀山の採掘時に女性達が作業効率を上げるために歌っていた坑内唄(労作唄)です。

ここ石見銀山では、「捲上げ節」と「銀堀唄(かねほりうた)」の2つが現代に残っています。

 

唄のタイトルにもなっている「捲上げ」とは、鉱石の入ったタゴ(入れ物)を立坑(さもと)の底から巻き上げる作業のことをいいます。

当時、石見銀山では男達に混ざって若い娘たちが働いていました。彼女達は4人一組になり、地下300メートルの立坑の座元(地底)から鉱石の入った重たいタゴをロープで巻き上げていたそうです。

娘達は、絣(かすり)の筒袖の着物に赤い腰巻き、首には豆絞りの白い手拭い、そして、足は脚絆と藁の足半(あしなか)といういでたちで作業しました。一切手を休めることはできず、それもかなりの重労働・・・捲上げ節は、そんな過酷な環境の中で歌われていました。

2楽譜
(石見銀山捲上げ節 楽譜・歌詞/引用:石見銀山捲上げ節パンフレット ※提供:梶谷朱美教授)

 

では、石見銀山捲上げ節が、なぜここで注目を集めたのでしょうか?

実は、今よりもっと前に「捲上げ節」を守っていこうという活動がありました。

 

石見銀山は、その名の通り「銀」が採掘できる山でした。石見銀山の銀採掘は戦国時代に始まり、1943(昭和18)年の大洪水により閉山するまで、400年という長い歴史があり、今でも地底深くには銀が眠っていると言われています・・・。

 

その後、1969(昭和44)年4月、石見銀山は国の史跡指定を受けました。
それをきっかけに、この由緒ある坑内唄を史跡とともに後世に残そう!という活動が起こり、捲上げ節に踊りの振付が考案されました。この活動が、現在に受け継がれる「石見銀山捲上げ節」へと繋がっていくのです。

・・・しかし、そうした活動は、時代と共に徐々に光を失っていきました。

 

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2023年、【石見銀山捲上げ節】は再び注目を集めています!

この春、まちなびスタッフが向かった先は、松江市の島根県立大学(松江キャンパス)でした。

私達を歓迎してくださったのは、体育教育学・舞踊教育学を主に研究されている梶谷朱美教授。

3梶谷教授
(島根県立大学短期大学部 梶谷朱美教授)

 

梶谷教授は、今回の「石見銀山捲上げ節保存プロジェクト」の発起人だったのです!

そこで、ある思いを伺いました。

 

「石見銀山捲上げ節保存プロジェクト」のテーマは【未来へつなげよう!】

 

捲上げ節は、1969年に一度スポットが当たり、由緒ある坑内唄として受け継いでいこうという保存活動が行われました。しかし、近年では捲上げ節の音源や踊りの動画を記録したものが見つからず、これまで伝承されてきた踊りが途絶える危機に直面していました。

梶谷教授は、その現状を目の当たりにし、「このままでは文化が失われてしまう!石見銀山捲上げ節を後世に伝えたい!」という強い気持ちがわき上がったそうです。

そこで、新たにパンフレットやDVDを製作し、未来に継承していくためのプロジェクトが動き出したのです!

 

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季節は夏になり、7月、続いて向かった先は、大田市大森町――

記録保存のため、捲上げ節の映像を収録することになりました。会場は「大森町町並み交流センター」。

4大森町町並み交流センター
(大森町町並み交流センター 外観)

 

集まっていたのは、地元大森町の有志15名の皆さん。

そして、監修を担当する梶谷教授、島根県フォークダンス連盟の出構弘美会長。事務局の中島民子さん。

踊りの解説者・動画撮影を担当する全日本民踊指導者連盟島根県支部の多久和淑子さん。

動画撮影・編集を担当する奥野愛子さん。

5集合写真
(収録に参加した地元有志の皆さんとプロジェクトメンバー)

 

夏の暑い中、長時間の撮影が続きましたが、皆さんとてもはつらつとした表情で踊っていました。

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(笑顔で踊る皆さん)

 

曲の中に「スッチョイ スッチョイ」というハヤシ言葉が登場します。

これは、滑車ロープのきしむ音を表しているそうです。鉱石が詰まったタゴをグッと力を込めて巻き上げるとき、このきしむ音が坑内に響いていたのかもしれません。

7ハヤシにあわせて
(「アー スッチョイ スッチョイ」のハヤシにあわせて踊る様子)

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(当時の作業服をイメージした衣装)

 

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今回、踊っていただいた方の中から、此下千鶴子さんと中川英子さんにプロジェクト参加への思いを聞くことができました。

 

【Q1】「石見銀山捲上げ節」にであったきっかけは何ですか?

【A】     
 元々、地域の文化として根付いていました。1950(昭和25)年頃には、地域の青年団でも踊っていましたし、自分達の子どもがまだ小学生だった頃は、PTAとして小学校に踊りに行ったりしていました。本格的に踊りを教えてもらったのは、婦人会がきっかけでした。

 

【Q2】大森町にとって、「石見銀山捲上げ節」とはどんな存在ですか?

【A】     
 石見銀山を徳川幕府が鉱山として開発してから閉山になるまで、鉱山の労働者たちの間で唄われていたのが、この「石見銀山捲上げ節」という労働歌でした。厳しい環境の中で働いていたので、とても多くの方が亡くなられたと思います。今でこそ、小学校などで踊ったりしますが、そういった辛い歴史があったということをこの唄は伝えてくれています。

 

【Q3】今回の保存プロジェクトへの意気込みや思いを教えてください。

【A】     
 大森町内で話題になることはあっても、これまで島根県として特に取り上げられていませんでした。正直な気持ちを言うと遅すぎるくらいですが、今回このように注目してもらえたことはとても喜ばしいです。

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(地元有志の皆さん)

 

地元では、子どもの頃から「当たり前」として根付いている石見銀山捲上げ節・・・

今回、再び注目されたことについて、とても誇らしいと笑顔でお話していただきました。

 

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次に、プロジェクトの発起人である梶谷教授に、その思いを伺いました!

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(撮影会で撮影を監修する梶谷教授)

 

【Q1】石見銀山捲上げ節保存プロジェクトを企画した理由(きっかけなど) を教えてください。

【A】
 研究の一環として、これまで雲南市木次町に伝承している木次盆踊りや近年では、松江市宍道町の宍道盆踊り「コダイジ」などの記録保存に取り組んできました。
10年くらい前でしょうか・・・。大田市の方に教えてもらったこの「石見銀山捲上げ節」が心の中にありました。石見銀山で働く女性の労作唄(労働歌)と踊りは歴史の証人だと感じたからです。

 

【Q2】「石見銀山捲上げ節」のパンフレット製作に込めた思いを教えてください。

【A】
 大田市大森町に伝承するこの貴重な唄と踊りの意味や、歴史的な背景を広く住民の皆さんに考えていただきたいとともに、未来を担う子ども達にも伝えたいと強く思いました。 

 

【Q3】参加者のみなさんへメッセージはありますか?

【A】
 大森町の皆さんが15名もご参集いただき感激しました。記録保存し、伝承したいという熱い思いは私と同じだと感じました。深く感謝しています。地元の皆さんの踊りは、泥臭く、素朴で、これぞ「ふるさとの民踊」です。

当日は、隊形をかえて10回近く踊っていただきましたが、一人として嫌な顔はされませんでした。すてきな動画ができました。パンフレットやユーチューブ、DVDなどで広く発信します。

 

【Q4】保存プロジェクトを通して、子ども達に何を伝えたいですか?

【A】
 石見銀山に生きた先人の暮らしや女性の力強い生き様を想像してほしいです。
 子どもも大人も、この踊りを一緒に楽しみ味わってほしいです。

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(捲上げ節の収録風景)

 

そして、収録から約3ヶ月・・・待望のパンフレットが完成しました!!!

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(パンフレット ※提供:梶谷朱美教授)

 

このパンフレットの最大の特徴は、「動画が見られること」。

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(QR1:歴史と背景)   

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(QR2:唄と踊りの由来)   ※提供:梶谷朱美教授

 

QRコードで動画サイトとつなぎ、唄と踊りや由来などについて「見て」・「聞いて」、そして「踊る」ことができるのです!

ぜひ、当時の鉱山で働く娘達の姿を思い浮かべながら、「石見銀山捲上げ節」に触れてみてください。

 

パンフレットは、しまねまちなびの情報コーナーにも置いています。

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(まちなび情報コーナーの大田市エリアにあります!)

 

お立ち寄りのさいは、ぜひ、お手に取ってご覧くださいね。

 

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【石見銀山捲上げ節パンフレット・DVDのお問合せ先】

公立大学法人島根県立大学短期大学部 短期大学部長
保育学科 教授 梶谷朱美

住所:島根県松江市浜乃木7-24-2

TEL:0852-26-5525(代表)
MAIL:a-kajitani@u-shimane.ac.jp[in2] 

 

▸▸▸ 後編に続く