たたらの総本山、安来にあり «博物館編»
2016年12月01日
江戸時代に鉄の積出港として栄えた、安来港。
江戸後期の山陰の鉄生産量は全国の8割を占めていたと言いますから、北前船が行き交う安来港の当時の賑わいは相当なものだったと思います。
日本刀の生産に不可欠な高純度の鉄を生み出す日本古来の製鉄法、「たたら製鉄」。その技術によって地域は大いに繁栄しましたが、この製鉄法には量産が出来ないという大きな欠点がありました。
明治時代になると、大量生産を可能とする西洋の製鉄技術の普及し、「たたら製鉄」は衰退。
そんな状況に危機感を抱いた山陰のたたら経営者たちが、安来港近くに「雲伯鉄鋼合資会社」(日立金属の前進)を設立。これを契機に、安来は鉄の積出港から、優れた鋼の生産地へ姿を変えていきました。
「たたら製鉄」の伝統に最新の技術を取り入れ、世界に誇る「ヤスキハガネ」を生み出すまでに成長した、"ハガネの町、安来"。
和鋼博物館から見る安来港
日本遺産「出雲國たたら風土記〜鉄づくり千年が生んだ物語〜」
たたらの積出港としての面影を残す安来港周辺は、「安来港と安来の町並み」として、平成28年4月に日本遺産の構成文化財に認定されました。
そんな安来港近くの『和鋼博物館』へ、出雲國の鋼の歴史を学びに行ってきました。(※『和鋼(わこう)』とは、たたら製鉄法によって生産される日本独特の鋼を意味します。)
たたら製鉄に関する施設は、一大生産地であった雲南市、奥出雲町にもいくつかあり、おすすめは全部!なのですが・・・和鋼博物館は、"まず、たたら製鉄って何?全体像を知りたい!"という方に、最初の訪問地としておすすめしたい場所です。
もちろん、既に知識のある方にもおすすめです。
日本遺産の構成文化財を含む250点もの重要有形民俗文化財があり、収蔵されている資料の数は15,000点!!「たたら製鉄」に関するものとしては、国内最大規模の博物館だからです。
それら豊富な資料から、「たたら製鉄」の歴史や技法、当時の様子等を、製鉄用具や模型、ちょっとした体験、映像等の展示を通して分かりやすく伝えてくれる、初心者にも親しみやすい施設だと感じました。
和鋼博物館天秤鞴体験コーナー
●こうして、たたらの炉に空気を送るための装置、『天秤鞴(ふいご)』を踏んでみたり...
中国地方で独自に発達した、天秤鞴。
実際に踏んでみると結構大変!ですが、江戸時代初期にこれが導入される以前は手動で風を送っていたのですから、天秤鞴の登場は想像を超えるほど画期的なものだったことが分かります。
因みに、鞴を踏む人は、『番子』。"代わり番子"の語源。
"あぁ、もうダメだー誰か替わってーーー?!"
(踏んでいるのはレプリカですが、展示室には実物(国の重要文化財)も展示されています。)
たたら製鉄用砂鉄
●展示室内では、原料となる砂鉄が山から『鉄穴(かんな)流し』によって採取される様子や、製錬工程である『たたら吹き』によって日本刀の原料"玉鋼"を含む"鉧(けら)"がつくられるまでの過程を、映像や模型によって見せてくれる展示があったり・・・
日本刀を持ってみることができたりと、ただ見るだけではなく、自分で触れてみることで、興味や理解をぐっと押し上げてくれるような工夫が凝らされていました。
鉧(けら)
●建物の外には、巨大な鉧も置かれていましたよ。惜しげもなくどどーん、と。
博物館に入るときは、「なんだ、これ。」くらいに思っていたものが、出てくるときには、「わぁ!これは、あのケラじゃあないの!!」と、関心の持ちようがまるで違ってきます。
●その他にも、玉鋼をつくるために、今も世界で唯一「たたら製鉄」の操業が行われている日刀保たたらの映像の上映もありました。
玉鋼(たまはがね)
玉鋼は非常に純度が高く、現代の科学技術でも生み出すことができない、「たたら製鉄」でしかつくることがでないものなのだそうです。
1回10トンの砂鉄と12トンの木炭を三日三晩燃やし、玉鋼を含む2トンの鉧をつくります。夜通し炎を燃やし行われる作業には、映像からでもその凄さが伝わります。
●それから、ヤスキハガネを使った製品等の展示もありました。
歴史と今との繋がりが見えて、「たたら製鉄」の文化が、ぐっと身近に感じられるようになりました。
和鋼博物館の特徴的な屋根
安来駅からは約1km。目印はこの屋根。
このどっしりとした特徴的な屋根の形は、たたら製鉄が操業されていた高殿と呼ばれる建物と、安来市のシンボル十神山を掛け合わせてデザインされたそうです。
目で見て触れて、学ぶことができる。たたら製鉄に興味のある方には、まず訪れてみていただきたい、たたらの総合博物館です。
◎和鋼博物館について詳しくは⇒安来市観光協会公式サイトへ